たとえばウツボムーンの冊子
地方の小さな印刷会社の二階の倉庫、西日が差し込み逆光の中に埃が静かに舞っている。何年、いや何十年も前から隅の方に放置されている埃をかぶったクラフト紙の包み、何気なしに開けてみると50冊程の冊子がかなり黄ばみ、湿度や埃も吸い込んでいるようだ。頁をめくってみると、赤と黒の強いコントラスト、ロシアアヴァンギャルドの何かのようだが、本物なのか、ニセ物なのか…。もしかしたら図案科を出た祖父がデザインしたものなのかも…。
というようなものをつくりたくて、古さの演出を考えた。はじめは、紙をそれらしいものにすれば雰囲気が出せるのではないかと思い、わら半紙・新局紙を試してみるが、ちっとも古い感じが出ない。そこで、100年以上前の古い本の文字や図版のない紙地をスキャニングし、それをベースにすることにした。徹底して本物の感じを出したかったので、全頁分違うものを使用した。製版はランダムドットのFMスクリーンを使用した。アミ点が目視できるとシラけるからである。出来上がったものは、時代を生きのびたアンティークのようでもあり、デッドストックのようでもあり、存在感があってとても気に入っている。ただしこれはあくまでも演出があった上でのものなので多用しないようにと心がけてはいる。